ごあいさつ

「データサイエンス」とは、単にデータを統計ツールを用いて分析し、ビジネスに活用する、というだけのものではありません。言うならば、ビジネスにおける洞察・予測・意思決定のパラダイムチェンジを起こす可能性をもつものです。

IoT(Internet of Things)やウェアラブルデバイスの普及により、世界に存在し行き来するデータは驚異的な勢いで増大し、「ゼタバイト時代」(1ゼタバイトは10億テラバイト)に突入していくと言われています。同時に、計算能力の向上や機械学習のような手法の進化によって、膨大なデータを徐々に扱えるようになり、データ分析のスキルを持つ人材がビジネスの世界でより一層必要とされています。

しかし、そうした表面上の変化の背後の見えないところで、また別の変化が起きています。それは、科学としての統計学の中身の変化と、日本のビジネス界におけるデータ活用の位置づけのシフトです。

統計学における確率の概念には、いわゆる「頻度主義」と「ベイズ主義」の二つの流派があります。サイコロの確率など高校で習うのは「頻度主義」の確率で、データ解析などで「統計的に有意」などと言ったりするのも「頻度主義」の確率概念です。一方の「ベイズ主義」的な確率概念は、「主観確率」とも呼ばれ、「宇宙人が存在する確率」など繰り返しができない不確実な事象に対する信念の度合いを体系化するもので、その不可解さから250年もの間、統計学者の中で長らく異端とされてきました。

そんな中で、「ベイズ主義」的なアプローチが密かにその真価を発揮したのは、不確実な状況の究極ともいえる軍事研究でした。砲術、原爆の設計、暗号解読、潜水艦の探索、などです。その為、多くは機密扱いで、人材も大きく米英に偏っています。また、米英の主な大学には必ずある統計学部や統計学科が日本には存在しません。一部の科学者を除いて、日本で「ベイズ主義」的なアプローチに触れる機会は皆無だったと思われます。

そして現在、軍事研究とは別にのIT革命後の新たな流れのなかで、機械学習やディープラーニング、機械翻訳、自動運転、レコメンデーション、画像音声処理などの、現代的データ分析の統計手法が生み出され、様々な分野で広く活用されています。そしてその多くは、結果的に「ベイズ主義」的なアプローチによるものでした。こうして、科学としての統計学において、「ベイズ主義」の実用性の高さと価値が広く認められるようになってきました。データサイエンスとは、この意味で統計学における「ベイズ主義」応用の流れの上に立っていると言ってよいでしょう。

不確実な状況において、重要な意思決定をしなければならないことは、経営の常です。近年は扱えるデータの量が増大し、さらには処理するハードスペックの向上、アルゴリズムの進化により、データサイエンスが意思決定の支援をできるようになりつつあります。しかし、その新しい武器をうまく使いこなせる人はまだまだ少ないようです。JDSCは、その使い方を研究し啓蒙するものです。

現代的なデータサイエンスの真価は、人間の認知の限界(ヒューリスティックやバイアス)を超えて、不確実な状況においてデータから洞察・予測・意思決定の3つを行うという”意思決定”をすることです。多くの日本人が苦手とするところですが、私たちJDSCの活動を通じて、日本のビジネスにパラダイムチェンジが起きることを願ってやみません。

日本データサイエンス研究所
首席研究員 大場紀章


略歴

1979年に愛知県江南市に生まれる。

2008年に京都大学院理学研究科博士後期課程単位取得退学後、技術系シンクタンク株式会社テクノバに入社。 エネルギー問題、サイバーセキュリティ、材料科学、人工知能研究など、幅広い分野のスペシャリストとして活動中。

ウプサラ大学物理・天文学部、中国石油大学に短期留学。 Nanobell株式会社主任技術者。新世代シンクタンクGEFリサーチ代表。

テレビ出演

  • 新世代が解く!ニッポンのジレンマ~数理のチカラ、僕らの未来~」(NHK Eテレ)2013年6月30日
    (収録後インタビュー http://dilemmaplus.nhk-book.co.jp/talk/4517 )
  • 「本格報道INsideOUT」(BS11)解説者として出演
      2012年6月1日、2013年4月19日、2014年6月30日

連載

  • 「日経ビジネスオンライン」『「そもそも」から考えるエネルギー論』(2012年2月 - 2012年7月)
  • 月刊FACTA 「大場紀章EYE」(2013年11月 - )